番外-3

断崖絶壁の「世界の端」でどうすりゃ良いのか、ちょっとだけ途方に暮れたセルムラント騎士団。

「私の騎士が・・」


一人さめざめと泣く弾避けA
・・間一髪脱出してたらしい、ちっ。


いつかも聞いたように、そもそも騎士・・このバカみたいにデカイ鎧は「魔導機関」とゆーエンジンを中核に動いているらしい
魔導、有り体に言う「魔法」・・それを使うための「不思議な力」はこの機甲界全てに空気と同じように充満している

・・が、ひとたび機甲界の外・・一歩でも「力」のない圏外に踏み出せば、魔導機関は燃料を失って機能停止・・


つまり、いかにセルムラント騎士団が常識外れの集団でも、機甲界の外では話が違ってくるワケだ


・・・だから、フォルゲイン達は難しい顔をして考え込んでいる


「・・・どうやってこの光の指し示す方向へ向かうのだ?」
「空は飛べぬし・・」
「橋をかけようにも、向こう岸が見えないんじゃねぇ・・」
「そもそも、そのような長さをどうやって用意するのだ?完成するまでに機甲界の終わりが来るぞ」
「むぅ・・・・・」


・・・その時、不意にディーバインの頭が動いた


「・・・!」


何か言いたげに、俺の方を向いている


・・・こいつ、やっぱ生きてる・・?


その背中には魔導機関の放つ粒子のような光とは違う、見覚えのある「赤い光」・・


「バーニア・・?」



そうだ、こいつ・・・騎士のくせに現世の・・・俺の世界の技術と同じものがくっついていやがる。

こいつ自身それをわかって「使え」と言っているらしいな・・・こりゃ。


「・・一発提案があるぜ、みんな。」


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「カナメを投げ飛ばす・・・?」
「ああそうさ、俺のディーバインを・・投げるんでも、術でぶっ飛ばすんでも、とにかく向こうまで思いっきり吹っ飛ばしてくれりゃいい。」


いきなりの提案に一同目が点になる
・・が、カナメの目はやる気というか、決意というか・・そういう「根拠」に満ちていた


「俺と同じくディーバインもまた、どっかの世界から来た奴だって事だ・・たぶんできる。」
「・・異世界から来たお前だ、そういう事ができるからこそ呼ばれたのだろうな。」
「私は賛成する」
「あたしも異議な~し。」
「他に策もあるまい」


セルムラント騎士団の意見は一致した

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かくして


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」



・・ディーバインは、機甲界の外・・・

・・・世界の端の、その向こう側へ飛び立った



瞬く間に、機体を投げてくれたグラムレットやセルムラント騎士団の姿が見えなくなっていく
・・目の前には霧のような雲のような、「もや」が広がっている・・


・・が、「光」は見える


「グゥゥゥ・・・」



・・加速が落ち始めた辺りで、恐竜のようなうなり声を上げてディーバインの「バーニア」が作動する
再加速の衝撃にコクピットが揺れる・・・魔導機関が動いていないため、衝撃やらGはかなり大きくなっている



「・・・俺には遠慮すンな・・・・・飛べよ・・・!!」
「グァ!!」




・・赤い騎士は、白いもやを切り裂いて飛び続ける・・




・・つづく・・

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12

なんで俺はこの機甲界に呼ばれたか
なんで俺は冒険する気になったのか


なんで俺は・・・「ゲームのキャラ」に思い入れを持ったのか。



・・これがおそらく現実の、本当に別の世界にある現実の一つなんだとわかってなお・・俺はそんな疑問を持っていた



・・・そうだ、多分・・・

俺は初めて他人を「面白い」と思えたんだと思う
俺の居た世界においての他人はくだらない連中だと、さっさと切り捨てていたんだと思う

ゲームの面白さにハマって、それ以下のものにしか見えなくなっていたんだろう。


・・・面白いのはゲームじゃない、キャラクターだ・・!



そこにいるキャラクター、人間、個人・・それらが面白いからこそ俺は気に入ってゲームをやっていた
・・それはグラムレットやセルムラント騎士団、そこらの村人に至るまでああいう連中の事・・


・・・なんでこんな、カンタンな事がわかんなかったんだろーな
現実だってゲームみたいなもんじゃないか。


「・・帰ったら、探してみるかな。」



・・・・・何を探すのか、さっぱりわかんねぇけどな。

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ディーバインが光を追い続け、しばらく時間が過ぎた


・・・・・「もや」が消える


「?」



ゴール、のようだ


そこには・・「神殿」というに相応しい、巨大な白い建造物が浮かんでいた
・・・昔教科書で見たパルテノンとかそういう部類の・・ギリシャ系の建造物。
ディーバインどころか、グラムレットやフォルゲインをもってしてもそのサイズには数十倍の開きがある

「・・行くぜ」


ディーバインは巨大な石床の上に着陸すると、ゆっくり歩を進め始めた

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・・・内部は不思議な事に、「天井」があるにもかかわらず太陽の光が差し込んでいる
・・そして、不気味な程静まりかえっている

まぁ当然か、「世界の端」からここまで到達できるような騎士があるとも思えないしな・・


「グゥゥ・・・」


ディーバインが歩を止めた

・・・何かの気配がする


「・・・騎士・・か、それとも・・・・・・?」



・・騎士の駆動・歩行音は聞こえない
・・・順当に行けば、ラスボスって所だが・・・

・・出てきたのはローブを頭からすっぽりかぶった、ただの「人間」だった


「おやー、パンピーが居るとは珍しいですなぁ。」
「パ・・・・・ンピー・・・」


いきなり一般ピープル呼ばわりか、なんだこいつ・・


「てめェ何者だ、ラスボスだってンならさっさと相手になるぞタコ。」
「ラスボス?・・・・・あーあー、あなたそういう子ですかぁ。」



・・・影から出てきたそいつは、ローブのフード部分を後ろに降ろした
20代くらいだろうか、グラムレットよりちょっと大人っぽいような感じの女だ。


「ここで会ったもなんかの縁、ささ、こっちいらっしゃいな。」
「・・・あ、ああ・・・・・・」


なんか調子狂うな、ここまで来てこんな奴がいるだけかよ・・?

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ディーバインを降りた俺が通された部屋は・・・驚くほど「懐かしかった」


畳ン畳半、こたつ、みかん、ちょっとガタの来た小さめのテレビ・・
・・・ただ気になるのは、その女の衣装と部屋の所々に世界観の合わない代物が混ざっている事だ
・・・ベータのテープやレコードは良いとしても、何か得体の知れない生き物の毛皮や、妙にSFちっくな怪しい機械とかがある


「ここって意外と寒いからさー、こたつ入りなィ。」
「さっきからどこの方言だあんた。」

とツッコミつつ入る俺。


女はみかんを剥きつつテレビを付け、生活臭を漂わせながら語り始める


「この世界、もうすぐ終わるからさー。私がゲート閉じなくちゃならないワケよ。ゲートキーパーだから。」
「終わるってさっくり言うなよなー・・・・・・・ゲート?」
「しょ、げーふぉ。」
「食ってから話せ」


一通りみかんを食い終わるまで待ってやる


「・・私はあなたと同じぃ、ここの世界の人じゃないワケよぅ。」
「そりゃ、なんとなくわかる」
「あっちこっちの世界を行ったり来たりして、ゲートを閉じてるワケよ。」
「どういう事だ。」
「・・・どんな辺境だろうと、世界は必ず「つながってる」のよ、どこかで。それがこの世界の場合この神殿ってだけ。」

・・・「つながってる」?


「世界が壊れる・・終わるとなったら扉を閉じて他の世界との「つながり」を切ってしまう・・」
「・・・・・」
「そうしないとほきゃの世界もちょっちょした拍子に・・・(大丈夫噛んでない)」
「・・・・・(噛んだこいつ)」


こほん、と咳払い一つ



「でも俺はこの世界をなんとかするために呼ばれたらしいんだが?」
「んー、まぁそういう事もできるわよ。」


あっさり言いやがった。


「切り離すのは世界が壊れてしまう場合だけ、なんとかできるんならそれやってずばーっと元通りの方が良いワケよぉ」
「・・で、どうやるんだ?」
「カンタンな事よ、すごーく、とっても、すんばらすぃく☆」


ずずい、と女は目の前に寄る


「別世界の人・・・あなたがこの世界とつながれば良いのヨぉ。」
「・・・俺がつながる・・?・・・・・・・具体的に何をすりゃいいんだ?はっきり教えろ。」
「そうねぇ、例えば・・・・・」


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・・俺は神殿を後に、ディーバインで再び光の方向へ・・・今度は「世界の端」に向かって、戻り始めた


・・・今度は終始無言だ。


「・・グゥゥゥ・・」



ディーバインも何か言いたげだが、まぁ・・・この世界と俺の問題だしな。

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「戻ったか!」
「無事で何よりだ、カナメ!」
「・・・・・・」


着陸したディーバインに近衛閃団のメンバーと、セルムラント騎士団一同が駆け寄る
・・・俺は降りて、機体のその前に立った


「どうした?」
「・・・もしかしてお嬢ちゃん、だめだったんかな・・?」
「・・・・・・・・・」


おもむろに、グラムレットに駆け寄る

・・・押し倒す


「っ!?」




・・・唇を重ねる。



「うぐむぅっ!?」



・・・周囲が唖然とする
フォルゲインと表情のわからない黒騎士だけが、無表情で佇む



「カナメ・・お、お前何を・・・」
「グラムレット」
「・・・?」


息を思いっきり吸い込む


「俺は・・・・・お前が!大好きだァァァァァァァァァ!!!」

























・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・長い長い沈黙が、訪れる





「ぷっ・・・・・・」


いつもの笑顔・・じゃない、初めて見る笑い顔。


「あははははっ・・・いきなり何かと思えば・・!」


グラムレットは俺を抱きしめて言った


「私もお前が好きだぞ、カナメ・・・!」
「え、あ、あう・・・・・」


なんかスゲー頭真っ白だ、俺。
何やってんだろなぁ、俺。

「私たちとて同じだ、貴公のような良い友を嫌いであるワケがない」
「そうそう、日こそ浅いけど姉さんがお気に入りの子だしねぇ♪」
「ああ、志は一つだ」


・・・こんな方法しか思いつかないってのは、やっぱり俺・・・まぁだまだ子供なんだろうな・・

この世界とつながる方法・・・・「俺がこの世界で知った全てを肯定すること」、それがつながるって事なんだ。


全部好きになるんだ。






・・いや、もうなってたんだ、きっと。


俺とみんな・・・仲間の声が響く




そうだ・・・今ここは、確かに俺の存在する世界なんだ。

ここにこうして、みんなと居るんだからな・・・




・・つづく・・

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13(FINAL)

・・・・・実感はないけど、機甲界は救われた。
数日後、夜も更けた頃にセルムラントに戻った俺たちは姫さんに報告して騎士団の宿舎に泊まった



「世話になったな、お前にも」
「グゥ・・・」

やっぱり恐竜みたいな声を出すディーバイン
こころなしか、疲れたような声に聞こえる


「俺に任せてよかったろ、グラムレット?」
「・・・ああ、全くだ」


なんだろ・・あれ以降、笑顔や・・表情が丸くなったように感じる
・・ま、これは俺の見方が変わったってだけかもな・・





「楽しかったぞ、カナメ。」




・・・最後にぼそり、とつぶやいた言葉を聞いて、俺は眠りについた。


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「・・・んぁ・・」


目を覚ますと、ずいぶん涎が垂れていた
ぐしぐし、とこすって上体を起こす・・・


・・黒板と、チョークと、国語教師と、クラスメイトと・・・



学校の風景が、そこに広がっていた


「・・・・・・・・」



・・妙に現実感のない光景、俺は教師が止めるような声を聞いたが・・・無視してさっさと教室から出て行った


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「そうか、俺・・・戻ってこれたんだ。」


学校・・・輪舞第三中学校の屋上で、フェンス越しに眺める東京都・六澄区の風景
俺がいつも行くゲーセンが見えて、商店街があって、俺の家も小さいながらに見る事ができる


・・・だが、現実感がどうも伴わない


「・・全部夢だったって事は・・・」



・・・ない。


俺のポケットに、セルムラント騎士団の証・・あの後もらったリューゼ姫のペンダントがある。
そうだ、俺は確かにあの場にいて、戦っていた


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機甲界が救われたおかげで、俺は戻って来れたんだよな?
・・・だけど、俺はお別れも何も言ってねぇぞ?


こっちに戻ってきたら色々する事があったハズなのに、全く手に付かない


どうしてもグラムレットやみんなの・・その後が気になる・・・


「うかない顔をするな、カナメ」
「・・・・・!?」



その後が気になる人物・・・は、そこにいた
・・俺の家の、俺の部屋に。直立不動で。


「グラムレット・・どうやってここに・・!?」
「例の「神殿」が機甲界に衝突してな・・・調べていたら奇妙な女につれてこられた。」
「・・・・・あの女か・・・」


こたつとみかんとテキトーな態度しか覚えてねーけど、まぁ・・・感謝しとくか・・・


「さて、顔も見たし・・・私は帰るか・・・」
「え・・・もういっちまうのかよ・・?」
「案ずるな、お前と私たちの世界はつながっているのだ・・・いつでも訪ねて来ると良い。歓迎するぞ。」
「・・・・・!」


衝撃的な事実だった。



「そ、そういやあんた・・ここにいるもんな・・?」
「ああそうだ、こちらもあちらも・・・夢の世界などではないのだからな?」


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グラムレットとそうやって別れて以後、俺は変わった。
人と会話するようになったし、先公の話は一応聞くし、授業には出るし・・・

劇的に変わった「俺自身」は周囲にも影響を与え、「俺を取り巻く全て」もまた、劇的に変化した

・・無駄だと思っていた、つまらないと思っていた全ては機甲界で過ごしていた時と同じ充実感をくれる


・・ついでに、「変わり者を探す」という趣味ができた
グラムレットやフォルゲインみたいな奇抜な連中・・・こっちにも結構いるもんだ。

「霧の中から出る怪物の噂」の正体を探り、それと戦ってるらしい連中とも知り合いになった
・・俺も見てみたいもんだけどな、そんなのがいるなら・・



そして週末、土日はだいたい機甲界で過ごしている
(例のゲームソフト・・アレが「神殿」と同じ役割だとは驚いた・・)



この前はアーデンバラム帝国の姫さんやら帝国兵やらフォルゲイン達がこっちの世界に大挙して、一騒動になった
・・さすがに騎士を持ってこなかったので衛星中継世界中~・・の騒ぎにならんかったのが不幸中の幸い、か。

この騒動をきっかけに帝国も割れに割れてついに崩壊、よって機甲界の方は順風満帆らしい。



ただ・・・・・ディーバイン・・・俺の相棒として活躍したあの赤い騎士は「いつの間にか」「いなくなってた」そうだ
・・あいつは何だったのか、何故バルダール城にあったのか・・・赤い騎士に関する「?」が埋まるのは、また別の話のようだ。







「ありがとな、相棒。」





誰に言うでもなく俺はつぶやいて、また、あのゲームのスイッチを入れた。






・・・おわり・・・




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